むし歯が深く進行してしまった時、「神経を抜きましょう」と言われた経験はありませんか?

歯の神経は一度失うと二度と戻りません。しかし近年、むし歯が深く進行しても神経を残せる可能性が広がっています。それが「歯髄保存治療」です。

この治療法は、従来なら神経を抜くしかなかった症例でも、MTAセメントという特殊な材料を使うことで神経を守れる画期的な方法として注目されています。歯の寿命を大きく左右する神経を残すことは、将来的な歯の健康にとって極めて重要なのです。

歯髄とは?なぜ残すべきなのか

歯髄とは、歯の内部にある神経・血管・リンパ管などが集まった組織のことです。一般的には「歯の神経」と呼ばれています。

この歯髄には、私たちが想像する以上に重要な役割があります。痛みを感じるだけでなく、歯に栄養や水分を供給し、むし歯から歯を守る防御機能も担っているのです。

歯髄が持つ3つの重要な機能

歯髄には大きく分けて3つの役割があります。

まず、感覚機能です。噛む感覚や痛み、食べ物の温度など、さまざまな刺激を脳に伝えます。この機能により、むし歯などのトラブルに早期に気づくことができるのです。

次に、防御機能です。歯髄は異常を感知すると、免疫細胞を活性化させたり、第二象牙質(デンチンブリッジ)を形成したりして、歯を守ろうとします。

そして最も重要なのが、栄養供給機能です。血管を通じて歯に栄養素や水分、酸素を届けることで、歯に潤いを与え、しなやかで強い歯を維持します。

神経を失った歯に起こる3つのリスク

神経を抜いた歯は「失活歯」と呼ばれ、さまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。

最も深刻なのが、歯根破折のリスクです。栄養が行き届かなくなった歯は、生木の枝が枯れ枝になるように、もろく折れやすくなります。実際、歯を失う原因の約6割が歯根破折であり、その大半が神経のない歯なのです。

また、神経がないため、むし歯が再発しても痛みを感じず、発見が遅れてしまいます。詰め物や被せ物の下でむし歯が進行し、最悪の状態になるまで気づけないケースも少なくありません。

さらに、新陳代謝がストップすることで、歯が変色して黒ずんでしまう可能性もあります。審美的な問題だけでなく、歯の健康状態が悪化しているサインでもあるのです。

歯髄保存治療(VPT)とは何か

歯髄保存治療は、英語で「Vital Pulp Therapy(VPT)」と呼ばれ、生きている神経をできる限り温存する治療法です。

従来、深いむし歯では神経を抜く「抜髄」が一般的でした。しかし、適切な診断と治療技術、そして優れた材料を使うことで、神経を残せる可能性が大きく広がっているのです。

従来の治療との違い

日本では長年、ある程度大きいむし歯があると、すぐに神経を抜く処置が行われてきました。

一般的に神経を抜くパターンは以下の通りです。治療後に痛みが出るかもしれない時、歯髄に達しそうなむし歯で保存が困難と判断した時、むし歯除去中に歯髄が露出してしまった時、治療後に激しい痛みが出た時、そして既に激しい痛みを伴う歯髄炎を起こしている時です。

しかし、この中で本当に神経を抜かなければならないのは、最後の2つのケースだけなのです。

歯髄保存治療では、マイクロスコープを使った精密な治療により、不必要な露髄を防ぎ、たとえ歯髄が露出しても、適切な保護処置を行うことで神経を残すことができます。

MTAセメントの革新性

歯髄保存治療の成功率を飛躍的に高めたのが、MTAセメントという材料です。

MTAは「Mineral Trioxide Aggregate」の略で、ケイ酸カルシウムを主成分とする革新的な材料です。1993年に米国ロマリンダ大学で開発され、2007年に日本で発売が開始されて以来、多数の症例で高い臨床評価を得ています。

MTAセメントの優れた特性は、生体親和性、封鎖性、石灰化促進作用、デンチンブリッジ形成能、細胞反応活性化促進作用、抗菌性など多岐にわたります。従来の水酸化カルシウムセメントと比べて、格段に高い確率で神経を残すことができるのです。

歯髄保存治療の実際の流れ

歯髄保存治療は、高度な技術と設備を必要とする精密な治療です。

当院では、患者様一人ひとりに最低30分の診療時間を設け、丁寧な説明と確実な治療を心がけています。

診断と治療計画の立案

治療の成否は、正確な診断から始まります。

レントゲン撮影はもちろん、電気歯髄診(EPT)により歯の生死と部分的な弱りを調べます。また、日常生活における痛みの程度も重要な判断材料です。診査項目で問題があると成功率が下がるため、それを分析し、正直にお伝えした上で治療を進めます。

歯髄保存治療には適応症があり、すべてのケースで可能というわけではありません。しかし、適切な診断により、従来なら神経を抜いていた多くの症例で、神経を残せる可能性があるのです。

精密な治療プロセス

治療は、確実な麻酔を行った後、細心の注意を払って進めます。

一般的な高速ドリルではなく、低速ドリルや手用器具を使い、むし歯を少しずつ慎重に取り除きます。健全な歯質は削らず、むし歯だけを確実に除去するため、拡大スコープや専用ライトを使用し、う蝕検知液でむし歯を染めて除去します。

ラバーダム防湿で治療部位を隔離し、露出した歯髄の感染を防止することも重要です。そして、MTAによる適切な覆髄処置を行い、歯髄を保護します。

この一連の治療は、時間をかけた繊細で慎重な器具操作により、治療後の痛みや炎症のリスクを最小限に抑えることができます。

治療後のフォローアップ

歯髄保存治療後は、定期的な経過観察が欠かせません。

治療直後は問題なくても、数ヶ月後に症状が出る可能性もあります。そのため、レントゲン撮影や電気歯髄診などで、歯髄の状態を継続的にチェックします。

万が一、歯髄の炎症が治まらない場合は、残念ながら神経を抜く処置が必要になることもあります。しかし、適切な診断と治療により、多くのケースで神経を残すことができるのです。

かさはら歯科医院の歯髄保存治療へのこだわり

当院では、歯髄保存治療に特に力を入れています。

「樽一杯のワインに一滴の泥水を入れれば、それは樽一杯の泥水になる」という言葉を診療理念とし、基本を大切にしながら常に自己研鑽を続け、適切な治療を提供することを目指しています。

マイクロスコープによる精密治療

当院では、最大で肉眼の24倍もの高倍率で治療を行えるマイクロスコープを導入しています。

保険診療、自由診療に関わらず、必要に応じてマイクロスコープを用いることで、より精度の高い治療を提供することが可能です。歯髄に近接した深いむし歯の治療では、この高倍率の視野が治療の成否を分けます。

また、歯科用デジタルパノラマ・CT X線装置により、低被曝で高解像度の3次元診査が可能です。これにより、さらに正確な診断ができるのです。

徹底した感染予防

歯髄保存治療では、細菌の侵入を防ぐことが極めて重要です。

当院では、欧州基準のCLASS B/S滅菌器を導入し、歯科の一般的な滅菌よりも厳密な滅菌を行っています。徹底した感染予防により、安心安全な治療環境を提供しています。

また、ラバーダム防湿を確実に行うことで、治療部位への唾液や細菌の侵入を完全に遮断します。この基本的な処置の徹底が、治療の成功率を高めるのです。

インフォームド・コンセントの重視

当院では、患者様お一人に最低30分の診療時間を設けています。

お困りのことや痛み、違和感をよくお話いただき、さまざまなアドバイスやご提案、ご理解をいただいてから治療を行うというインフォームド・コンセントを大切にしています。

歯髄保存治療は、適応症や成功率、リスクなど、患者様に十分ご理解いただく必要があります。疑問や不安があれば、どんな小さなことでもお気軽にご相談ください。

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歯髄保存治療のメリットと注意点

歯髄保存治療には、多くのメリットがある一方で、いくつかの注意点もあります。

治療を受ける前に、これらをしっかり理解しておくことが大切です。

歯髄保存治療の主なメリット

最大のメリットは、歯の寿命を延ばせることです。神経のある歯は、神経を抜いた歯と比べて、歯根破折のリスクが格段に低く、長期的に健康を保てます。

また、自分の歯として咀嚼機能や審美性を回復できます。神経がある歯は、噛む感覚が自然で、食事をより楽しめます。変色のリスクも低く、見た目の美しさも維持できるのです。

さらに、むし歯の再発に気づきやすいという利点もあります。痛みを感じることで、早期発見・早期治療が可能になります。

治療の注意点とリスク

歯髄保存治療は、すべてのケースで成功するわけではありません。

適応症が限られており、歯の状態によっては、治療後に歯髄の炎症が治まらず、結果的に神経を抜く処置が必要になる場合もあります。特に、既に激しい痛みを伴う歯髄炎を起こしている場合や、歯髄が死んでいる場合は、適応外となります。

また、治療後の経過観察が欠かせません。定期的な受診により、歯髄の状態をチェックする必要があります。

費用面では、自由診療となるケースが多く、保険診療と比べて高額になる可能性があります。しかし、長期的な歯の健康を考えれば、十分に価値のある投資といえるでしょう。

歯内療法(根管治療)|マイクロスコープによる精密治療

まとめ:歯を守るために知っておきたいこと

歯髄保存治療は、むし歯が深く進行しても神経を残せる可能性を広げる画期的な治療法です。

MTAセメントという優れた材料と、マイクロスコープによる精密な治療技術により、従来なら神経を抜くしかなかった症例でも、神経を残せるケースが増えています。歯の神経は、歯の寿命を大きく左右する重要な組織です。一度失うと二度と戻らないからこそ、できる限り残すことが大切なのです。

当院では、歯髄保存治療に特に力を入れており、最新の設備と技術、そして豊富な経験により、患者様の大切な歯を守るお手伝いをしています。むし歯が深く進行してしまった場合でも、諦める前に一度ご相談ください。

患者様の口腔ケアを大事に、一生お付き合いいただけるホームドクターを目指しております。歯に関するお悩みやご質問があれば、お気軽にお問い合わせください。

詳しい治療内容や診療時間については、かさはら歯科医院の公式サイトをご覧ください。皆様のご来院を心よりお待ちしております。


監修医師

かさはら歯科医院 院長 笠原 洋史 

https://doctorsfile.jp/h/194172/df/1/

【経歴】

平成9年 日本歯科大学 新潟歯学部 卒業

医療法人慈皓会 波多野歯科医院 入職

平成10年 藤本研修会 補綴・咬合コース

平成12年 MAXIS implant institure Step by Step Course

平成14年 くれなゐ塾 20期セミナー

     スウェーデンにてインプラント研修

平成16年 厚生労働省臨床研修指導歯科医認定

平成17年 医療法人慈皓会 波多野歯科医院 退職

    かさはら歯科医院 開設

平成23年 JIADS研修会 Endoアドバンスコース

などその他多数受講

【所属学会】

顎咬合学会

デンタルコンセプト21