歯周病と噛み合わせ…実は深い関係があります

歯周病の治療を受けている患者様から、「噛み合わせも関係しているのですか?」というご質問をいただくことがあります。

実は、歯周病治療と噛み合わせの関係は非常に深く、特に歯周外科治療を行う際には、この両者のバランスを考慮することが治療の成否を大きく左右します。歯周病は単に歯茎の炎症だけではなく、歯を支える骨「歯槽骨」が破壊されていく病気であり、この骨の状態と噛み合わせの力のコントロールは切り離せない関係にあるのです。

私がこれまで多くの歯周病患者様を診てきた経験からも、歯周病の進行には「細菌による炎症」と「噛み合わせによる力のダメージ」という二つの要因が複雑に絡み合っていることを実感しています。どんなに丁寧にプラークを除去しても、不適切な噛み合わせによって特定の歯に過度な力が加わり続けると、歯周組織は回復しにくく、場合によっては悪化してしまうこともあります。

本記事では、歯周外科治療と噛み合わせの関係について、基本的な知識から実際の治療における考え方まで、詳しく解説していきます。

歯周病が進行するメカニズム…炎症と力の二つの要因

歯周病の進行には、主に二つの大きな要因があります。

一つ目は「細菌による炎症」です。歯の表面に付着したプラーク「歯垢」に潜む歯周病菌が、歯茎や歯を支える骨に炎症を引き起こします。初期段階では歯茎の腫れや出血が主な症状ですが、自覚症状が少ないため、気づいたときには重症化していることがほとんどです。進行すると歯を支えている骨が痩せて歯がグラグラになり、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。実際、日本人が歯を失う原因の第1位が歯周病であり、さまざまな全身疾患を招くリスクも指摘されています。

二つ目は「噛み合わせによる力のダメージ」です。これは意外と見落とされがちな要因ですが、非常に重要です。上下の歯の噛み合わせ関係が悪いと、特定の歯に過度な力が加わり、その歯にダメージ「外傷」を与え、歯周病を進行させる原因となります。噛み合わせ関係を改善し、過度な力を受けている歯にダメージを与えないようにする処置を「咬合調整」と呼びます。

歯周ポケットの深さが示す進行度

歯周病の進行度を測る最も重要な指標の一つが「歯周ポケットの深さ」です。健康な状態では1〜3ミリメートル程度ですが、軽度の歯周病では4〜6ミリメートル、中度以上に進行した歯周病では7〜10ミリメートル以上になることもあります。

歯周ポケットが深くなるということは、歯と歯茎の境目の溝が深くなり、そこに細菌が溜まりやすくなるということです。さらに、この深い部分は歯ブラシでは届かないため、専門的な治療が必要になります。

噛み合わせの力が歯周組織に与える影響

噛み合わせの力は、健康な歯周組織であれば問題なく受け止めることができます。しかし、歯周病によって歯を支える骨が減少している状態では、同じ力でも歯周組織にとって大きな負担となります。

特に、歯ぎしりや食いしばりの癖がある方、歯の位置がずれている方、歯が抜けたまま放置している方などは、特定の歯に過度な力が集中しやすく、歯周病の進行を加速させる可能性があります。このような場合、細菌のコントロールだけでなく、力のコントロールも治療の重要な要素となります。

歯周外科治療とは…基本治療で改善しない場合の選択肢

歯周病治療は段階的に進められます。

まず最初に行われるのが「歯周基本治療」です。これは歯周ポケット内のプラークや歯石、その他汚染物質の除去を行い、むし歯の治療や簡単な咬み合わせの調整、必要な場合には抜歯や仮歯など、口腔全体の環境を整えるための治療です。軽度の歯周病であれば、この段階で治癒が期待できます。

しかし、基本治療だけでは治癒しない中度〜重度の歯周病の場合は、さらに治療を続ける必要があります。この段階では、歯肉「歯茎」やそれを支える骨が破壊されていることが多いので、それらの歯周組織を再生させる外科処置が必要になります。これが「歯周外科治療」です。

歯周外科治療の主な目的

歯周外科治療には、いくつかの重要な目的があります。一つは「歯周ポケットを浅くする」ことです。深い歯周ポケットは細菌の温床となり、患者様自身でのケアが困難です。外科的に歯茎を切開し、直接歯根の表面を清掃することで、ポケットを浅くし、清掃しやすい環境を作ります。

もう一つの重要な目的は「失われた歯周組織の再生」です。近年では、歯周組織再生剤などを用いた再生治療の技術が進歩しており、適応症例では失われた骨や歯周組織をある程度回復させることが可能になってきました。

歯周外科治療の種類

歯周外科治療にはいくつかの種類があります。代表的なものとして、歯肉を切開して歯根の表面を直接清掃する「フラップ手術」、失われた骨を再生させる「歯周組織再生療法」、歯茎を下げることで相対的に歯の見える部分を増やす「歯冠長延長術」などがあります。

どの治療法を選択するかは、歯周病の進行度、骨の状態、患者様の全身状態、そして噛み合わせの状態など、様々な要因を総合的に判断して決定します。

歯周外科治療における噛み合わせの重要性

ここからが本記事の核心部分です。

歯周外科治療を成功させるためには、噛み合わせのコントロールが極めて重要です。どんなに完璧な外科処置を行っても、術後に不適切な噛み合わせの力が加わり続けると、再生した組織が再び破壊されてしまう可能性があります。

建築に例えるなら、歯周病治療は「基礎工事」にあたります。どんなに立派な建物を建てても、基礎がしっかりしていなければ長持ちしません。同様に、どんなに高価な詰め物や被せ物を入れても、インプラントを入れても、歯周病で歯を支える基礎が崩れていれば、すべてが台無しになってしまいます。

噛み合わせの力が治療結果に与える影響

歯周外科治療後の治癒過程において、適切な噛み合わせは非常に重要です。治療によって歯周組織が再生しても、その部分に過度な力が加わると、再生した組織が破壊されてしまいます。

特に、歯周病で歯を支える骨が減少している状態では、残っている骨で噛む力を支えなければなりません。この時、特定の歯だけに力が集中すると、その歯の周りの骨はさらに吸収が進み、歯周病が悪化します。これを防ぐために、咬合調整によって力を分散させることが重要です。

咬合調整のタイミング

咬合調整は、歯周病治療の様々な段階で行われます。基本治療の段階で行うこともありますし、歯周外科治療の前後に行うこともあります。また、治療後のメンテナンス期間中も、定期的に噛み合わせをチェックし、必要に応じて調整を行います。

私の臨床経験では、特に歯周外科治療の前に咬合調整を行っておくことで、術後の治癒が良好になるケースが多いと感じています。過度な力が加わっている歯の負担を軽減してから外科処置を行うことで、組織の再生がスムーズに進むのです。

歯周組織再生療法と噛み合わせの関係

近年、歯周病治療において注目されているのが「歯周組織再生療法」です。

これは、失われた歯槽骨や歯根膜などの歯周組織を、特殊な材料や薬剤を用いて再生させる治療法です。日本では、リグロスやエムドゲインといった歯周組織再生剤が使用されており、適応症例では優れた治療成績が報告されています。

しかし、この再生療法を成功させるためにも、噛み合わせのコントロールは欠かせません。再生した組織は、初期段階では非常にデリケートで、過度な力が加わると容易に破壊されてしまいます。

再生療法の適応と限界

歯周組織再生療法は、すべての症例に適用できるわけではありません。骨の欠損の形態、残っている骨の量、患者様の全身状態、そして噛み合わせの状態などを総合的に評価して、適応を判断します。

特に、噛み合わせの力のコントロールができない場合、例えば重度の歯ぎしりや食いしばりがあり、マウスピースなどの対策も困難な場合は、再生療法を行っても長期的な成功が難しいことがあります。このような場合は、まず噛み合わせの問題を解決してから再生療法を検討することになります。

再生療法後のメンテナンス

歯周組織再生療法を行った後は、定期的なメンテナンスが極めて重要です。再生した組織を長期的に維持するためには、細菌のコントロールはもちろんのこと、噛み合わせの定期的なチェックと調整が必要です。

当院では、再生療法を行った患者様には、通常よりも短い間隔でメンテナンスにお越しいただき、噛み合わせの状態を細かくチェックしています。わずかな変化も見逃さず、早期に対応することで、再生した組織を長期的に守ることができます。

全身疾患と歯周病…噛み合わせを含めた包括的アプローチ

歯周病は、単なる口の中の病気ではありません。

近年の研究では、歯周病と様々な全身疾患との関連性が明らかになってきています。例えば、歯周病の原因菌や細菌が産生する炎症関連物質が血管に入り、脳梗塞、アルツハイマー、誤嚥性肺炎、心臓病、早産・低体重児出産などのリスクを高める可能性が報告されています。

また、糖尿病と歯周病は相互に影響し合う関係にあることが知られています。糖尿病があると歯周病が悪化しやすく、逆に歯周病があると血糖コントロールが難しくなります。このような全身疾患を持つ患者様の歯周病治療では、より慎重な治療計画が必要です。

全身状態を考慮した治療計画

全身疾患をお持ちの患者様の歯周外科治療では、治療のリスクとベネフィットを慎重に評価する必要があります。例えば、重度の糖尿病や心疾患をお持ちの方では、外科処置のタイミングや方法を工夫する必要があります。

また、骨粗鬆症の治療でビスフォスフォネート製剤を服用されている方では、抜歯や外科処置によって顎骨壊死のリスクがあるため、特別な配慮が必要です。このような場合、かかりつけの内科医と連携しながら、最適な治療計画を立てることが重要です。

妊娠中の歯周病管理

妊娠中は、ホルモンバランスの変化やつわりによる歯磨き不足などが原因で、歯肉が腫れやすくなったり、虫歯にもなりやすい状態となります。また、歯周病により早産・低体重児出産の頻度が高まる可能性も報告されています。

妊娠中の歯周病治療では、外科処置は基本的に避け、基本治療を中心に行います。しかし、噛み合わせの調整など、母体と胎児に影響の少ない処置は適切に行うことで、妊娠期間中の口腔環境を良好に保つことができます。

長期的な歯の保存のために…予防とメンテナンスの重要性

歯周外科治療を成功させ、その結果を長期的に維持するためには、治療後の予防とメンテナンスが極めて重要です。

いくら完璧な治療を行っても、その後のケアを怠ると、また最初の状態に戻ってしまいます。歯周病は再発しやすい病気であり、一度治療が終わったからといって安心はできません。定期的なメンテナンスによって、良い状態を維持していくことが大切です。

セルフケアとプロフェッショナルケアの両立

歯周病の予防には、患者様ご自身によるセルフケアと、歯科医院で行うプロフェッショナルケアの両方が必要です。

セルフケアでは、正しいブラッシング方法を身につけることが基本です。歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスを使って、歯と歯の間もしっかり清掃することが重要です。また、歯周病のリスクが高い方では、歯科医師や歯科衛生士の指導のもと、適切な口腔ケア用品を選択することも大切です。

プロフェッショナルケアでは、歯科医院で専門的なクリーニングを受けます。セルフケアでは取り除けないプラークや歯石を除去し、歯周ポケットの深さや出血の有無などをチェックします。また、噛み合わせの状態も定期的に確認し、必要に応じて調整を行います。

定期検診の間隔

定期検診の間隔は、患者様の歯周病のリスクや治療の経過によって異なります。一般的には3〜6ヶ月に一度の検診が推奨されますが、歯周外科治療を受けた方や、歯周病のリスクが高い方では、より短い間隔でのメンテナンスが必要です。

当院では、患者様一人ひとりの状態に合わせて、最適なメンテナンス間隔をご提案しています。また、メンテナンス時には、噛み合わせの状態も必ずチェックし、わずかな変化も見逃さないよう心がけています。

まとめ…歯周外科治療の成功には噛み合わせのコントロールが不可欠

歯周外科治療と噛み合わせの関係について、詳しく解説してきました。

歯周病は、細菌による炎症だけでなく、噛み合わせによる力のダメージも大きな要因となります。特に歯周外科治療を行う際には、この両方の要因をコントロールすることが、治療の成功と長期的な維持に不可欠です。どんなに優れた外科技術を用いても、噛み合わせの問題を放置したままでは、良好な治療結果は得られません。

また、歯周病は全身疾患とも深く関わっており、口の中だけの問題ではありません。全身の健康を守るためにも、歯周病の適切な治療と予防が重要です。

当院では、マイクロスコープを用いた精密な治療や、最新の歯周組織再生療法など、高度な歯周病治療を提供しています。また、患者様一人ひとりに最低30分の診療時間を設け、インフォームド・コンセントを大切にしながら、包括的な治療計画を立案しています。

歯周病でお悩みの方、噛み合わせに不安を感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。一生お付き合いいただけるホームドクターとして、皆様の口腔の健康をお守りします。

詳しい診療内容や治療方法については、かさはら歯科医院の公式サイトをご覧ください。

監修医師

かさはら歯科医院 院長 笠原 洋史 

https://doctorsfile.jp/h/194172/df/1/

【経歴】

平成9年 日本歯科大学 新潟歯学部 卒業

医療法人慈皓会 波多野歯科医院 入職

平成10年 藤本研修会 補綴・咬合コース

平成12年 MAXIS implant institure Step by Step Course

平成14年 くれなゐ塾 20期セミナー

     スウェーデンにてインプラント研修

平成16年 厚生労働省臨床研修指導歯科医認定

平成17年 医療法人慈皓会 波多野歯科医院 退職

    かさはら歯科医院 開設

平成23年 JIADS研修会 Endoアドバンスコース

などその他多数受講

【所属学会】

顎咬合学会

デンタルコンセプト21