セラミック治療の「持ち」を左右する最大の要因

セラミック治療を受けた患者様から、「せっかく高額な治療をしたのに、数年で欠けてしまった」という声を聞くことがあります。

実は、セラミックの被せ物や詰め物が長持ちするかどうかは、素材の品質だけでなく「噛み合わせ」の設計が大きく影響します。どんなに審美性の高いセラミックを使用しても、噛み合わせが適切でなければ、過剰な負担がかかり、破折や亀裂のリスクが高まってしまうのです。

私がこれまで30年以上にわたり歯科治療に携わってきた中で、特にインプラント治療やマイクロスコープを用いた精密治療において学んだことは、「見た目の美しさ」と「機能的な噛み合わせ」の両立が、長期的な成功には不可欠だということです。

本記事では、セラミック治療における噛み合わせの重要性と、長期安定を実現するための設計ポイントについて、専門的な視点から詳しく解説していきます。

なぜ噛み合わせがセラミックの寿命を決めるのか

セラミック素材は審美性と生体親和性に優れていますが、過剰な咬合力には弱い一面があります。

噛み合わせが不適切だと、特定の歯に集中的に力がかかり、セラミックに微細な亀裂が入ったり、最悪の場合は破折してしまうことがあります。金属の詰め物や被せ物と異なり、セラミックは硬くて強度がある反面、衝撃に対しては脆性破壊を起こしやすい特性を持っているのです。

咬合力の集中がもたらすリスク

人間の噛む力は想像以上に強く、奥歯では体重と同程度の力がかかることもあります。

適切な噛み合わせであれば、この力は複数の歯に分散されますが、噛み合わせのバランスが崩れていると、特定の歯だけに過剰な負担がかかります。セラミックの被せ物は、このような局所的な過負荷に対して特に脆弱です。

歯ぎしりや食いしばりの影響

夜間の歯ぎしりや日中の食いしばりは、通常の咀嚼時の何倍もの力を歯に加えます。

これらの習癖がある患者様の場合、噛み合わせの精密な調整とナイトガードの使用が、セラミック治療の長期的な成功には欠かせません。私の診療経験では、歯ぎしりの習慣がある方に対しては、セラミックの厚みや形態設計を慎重に検討し、必要に応じてナイトガードの装着をお勧めしています。

経年的な変化への対応

噛み合わせは年齢とともに変化します。歯の摩耗、歯周病による歯の移動、対合歯の状態変化など、様々な要因が噛み合わせに影響を与えるため、定期的なメンテナンスと咬合調整が重要になります。

長期安定を実現する噛み合わせ設計の基本原則

セラミック治療で長期的な安定を得るには、治療計画の段階から噛み合わせを考慮した設計が必要です。

咬合平面の適切な設定

咬合平面とは、上下の歯が接触する面の仮想的な平面のことです。この平面が左右上下でバランスよく整っていないと、特定の部位に過剰な力がかかります。

セラミック治療では、まず咬合平面を適切に設定し、その上で個々の歯の形態を決定していくことが重要です。私が学んだ噛み合わせ治療の原則では、咬合高径を決定する前に、必ず咬合平面を整えることが強調されています。

咬合高径の慎重な決定

咬合高径とは、上下の顎の間の垂直的な距離のことです。

この高さが適切でないと、顎関節に負担がかかったり、セラミックに過剰な力が加わったりします。特に複数の歯を同時に治療する場合や、長期間歯を失っていた部位にセラミックを入れる場合は、咬合高径の設定が治療の成否を左右します。

相互負担咬合の実現

前歯、犬歯、臼歯の3つのグループがそれぞれの機能を果たしながら、互いに干渉せず自由に機能運動が行えるという「相互負担咬合」の概念が重要です。

セラミック治療では、静的な噛み合わせだけでなく、顎を動かしたときの動的な噛み合わせも考慮する必要があります。前方運動時には前歯が、側方運動時には犬歯が適切にガイドすることで、奥歯のセラミックへの負担を軽減できます。

仮歯を活用した精密な噛み合わせ調整

セラミック治療において、仮歯は単なる一時的な代替物ではありません。

仮歯は、最終的なセラミックの設計図として機能し、噛み合わせの精密な調整を可能にする重要なツールです。私が学んだ治療方法では、仮歯を段階的に調整していくことで、理想的な噛み合わせを実現していきます。

テンポラリー段階での問題点抽出

治療の初期段階では、応急的に噛める状態を作り、その後詳細な検査を行います。

この段階の仮歯により、現在の噛み合わせの問題点を明確にし、治療計画を精緻化していくことができます。患者様の口腔内の状況を実際に観察しながら、最適な治療方針を決定できるのです。

テンタティブ段階での精密調整

次の段階では、噛み合わせのずれの調整、咬合平面の整備、咬合高径の設定を行います。

この段階では、静的な噛み合わせだけでなく、顎を動かしたときの動的な噛み合わせも調整します。噛み合わせには18のチェックポイント、審美面には13のチェックポイントがあり、合計31ものポイントを確認しながら調整を進めていきます。

プロビジョナル段階での最終確認

最終段階では、セラミックと材質の違いだけという状態を目指します。

この段階の仮歯には、口腔内の様々な貴重な情報が刻み込まれており、歯科技工士にとっても大変有意義な情報となります。仮歯情報なしにセラミックを製作することは、設計図なしにビルを建てるようなものです。

精密な型取りと歯科技工士との連携

セラミック治療の成功には、精密な型取りと歯科技工士との緊密な連携が不可欠です。

圧排糸を用いた精密印象

セラミックの被せ物を作るための型取りでは、歯と歯茎の境目に圧排糸という糸を巻き、歯肉と歯との境目をしっかり分かるようにします。

患者様にとっては少し不快感があるかもしれませんが、隙間がなくぴったりとフィットする被せ物を作るためには不可欠な処置です。精度の高いシリコン印象材を使用することで、変形がほとんどなく、精密な型取りが可能になります。

フェイスボウによる顎位記録

上下の歯の噛み合わせのバランスを測定する際には、フェイスボウという器具を使用します。

フェイスボウは患者様の頭部に装着し、上下の歯の噛み合わせや顎の動きを測定する装置です。歯科技工士が被せ物を作る際には、「咬合器」という顎の動きを再現する器具に患者様の歯型の模型を取り付けて製作します。フェイスボウを使用することで、顎の位置関係を正確に咬合器上で再現でき、顎の動きを忠実に再現することができます。

セラミスト(専門歯科技工士)との協働

当院では、セラミック製の被せ物を専門につくる歯科技工士に依頼し、被せ物を作製しています。

精度の高いセラミック製の被せ物を製作するには、経験や知識が豊富なうえ、センスも問われます。患者様に合う細かい調整を行い、満足いただけるような被せ物の作製に努めています。骨格情報も共有し、耳と眉間、歯型、鼻の横という4点を押さえて、骨格に対してどういう向きで歯が生えているかという情報まで伝えることで、口の中のリアルな歯ぎしりの動きまでを再現できるようになります。

マイクロスコープによる精密治療の重要性

セラミック治療における精度を高めるために、マイクロスコープの使用は大きな意味を持ちます。

マイクロスコープとは、最大で肉眼の24倍もの高倍率で治療を行うことができる顕微鏡のことです。当院では保険診療、自由診療に関わらず、必要に応じてマイクロスコープを用いて、より精度の高い治療を患者様へ提供することが可能となっています。

削った歯の形態確認

セラミックを装着するために歯を削る際、その形態が適切でなければ、セラミックの適合性が低下します。

マイクロスコープを使用することで、削った歯の形や型取りの精度を確認することができ、より精密で精度の高い治療が受けられます。特に歯と歯茎の境目の仕上がりは、長期的な歯周病のリスクにも関わるため、細部まで確認することが重要です。

適合性の最終チェック

セラミックを装着する際にも、マイクロスコープは威力を発揮します。

セラミックと歯の境目に微細な隙間があると、そこから虫歯や歯周病が進行してしまう可能性があります。高倍率で確認することで、肉眼では見えない微細な不適合を発見し、調整することができます。

定期メンテナンスと咬合調整の継続

セラミック治療後の長期安定には、定期的なメンテナンスと咬合調整が欠かせません。

経年的な噛み合わせの変化への対応

噛み合わせは時間とともに変化します。

歯の摩耗、歯周病による歯の移動、対合歯の状態変化など、様々な要因が噛み合わせに影響を与えます。定期的に噛み合わせをチェックし、必要に応じて調整することで、セラミックへの過剰な負担を防ぐことができます。

セラミックでも虫歯や歯周病のリスクはある

セラミック自体は虫歯になりませんが、セラミックと歯の境目から虫歯が進行することがあります。

また、歯周病が進行すると歯茎が下がり、セラミックの境目が露出してしまうこともあります。フロスや歯間ブラシを正しく使用し、定期的な歯石除去を受けることが、セラミック治療の長期的な成功には不可欠です。

初期トラブルの早期発見

定期検診では、セラミックの微細な亀裂や咬合の変化を早期に発見できます。

小さな問題のうちに対処することで、大きなトラブルを防ぐことができます。当院では、患者様一人あたり最低30分の診療時間を設け、丁寧にチェックを行っています。

まとめ:美しさと機能の両立が長期安定の鍵

セラミック治療は、審美性と機能性を兼ね備えた優れた治療法ですが、その成功には噛み合わせの精密な設計が不可欠です。

どんなに美しいセラミックを入れても、噛み合わせが適切でなければ、長期的な安定は望めません。咬合平面の設定、咬合高径の決定、相互負担咬合の実現、仮歯を用いた段階的調整、精密な型取り、マイクロスコープによる確認、そして定期的なメンテナンス。これらすべてが、セラミック治療の長期的な成功には欠かせない要素です。

私が30年以上の臨床経験で学んだことは、「基本を大切に疎かにせず、常に自身の研鑽を忘れず発展をさせていくこと」が、患者様に適切な治療を提供することにつながるということです。セラミック治療をお考えの方は、見た目の美しさだけでなく、噛み合わせを含めた総合的な治療計画を立ててくれる歯科医院を選ぶことをお勧めします。

セラミック治療について詳しく知りたい方、噛み合わせに不安がある方は、ぜひ専門家にご相談ください。詳細はこちら:かさはら歯科医院

監修医師

かさはら歯科医院 院長 笠原 洋史 

https://doctorsfile.jp/h/194172/df/1/

【経歴】

平成9年 日本歯科大学 新潟歯学部 卒業

医療法人慈皓会 波多野歯科医院 入職

平成10年 藤本研修会 補綴・咬合コース

平成12年 MAXIS implant institure Step by Step Course

平成14年 くれなゐ塾 20期セミナー

     スウェーデンにてインプラント研修

平成16年 厚生労働省臨床研修指導歯科医認定

平成17年 医療法人慈皓会 波多野歯科医院 退職

    かさはら歯科医院 開設

平成23年 JIADS研修会 Endoアドバンスコース

などその他多数受講

【所属学会】

顎咬合学会

デンタルコンセプト21