歯周外科治療とは?再生療法の種類と選び方を歯科医が分かりやすく解説
歯周病が進行すると、歯茎の腫れや出血だけでなく、歯を支える骨が溶けてしまうことがあります。
そのような状態になると、通常の歯石除去やクリーニングだけでは改善が難しく、「歯周外科治療」が必要になるケースも少なくありません。しかし、歯周外科治療と聞くと、「手術は怖い」「痛そう」と不安に感じる方も多いでしょう。実際には、歯周外科治療は歯を守るための重要な選択肢であり、近年では「歯周組織再生療法」という画期的な治療法も登場しています。
本記事では、歯周外科治療の基本から再生療法の種類、そして患者様に合った治療法の選び方まで、長年インプラント治療や歯内治療に携わってきた経験をもとに詳しく解説いたします。

歯周外科治療とは?基本を理解する
歯周外科治療は、歯周病が中等度から重度まで進行した際に行われる外科的な処置です。
歯周病は「サイレントディジーズ」とも呼ばれ、初期段階では自覚症状がほとんどありません。気づいたときには歯と歯の間の歯茎が大きく下がり、歯を支える骨が溶けてしまっていることも珍しくないのです。このような状態では、通常の歯石除去では歯周ポケットの奥深くに溜まった歯石や細菌を完全に除去することが困難となります。
歯周外科治療が必要となるケース
歯周外科治療の適応となるのは、主に以下のような状況です。
- 歯周ポケットが深く、通常のスケーリングでは歯石除去が困難な場合
- 歯を支える骨が大きく溶けてしまっている場合
- 歯茎の形態に問題があり、審美的な改善が必要な場合
- 歯周病による炎症が慢性化し、基本治療だけでは改善が見込めない場合
当院では、患者様お一人に最低30分の診療時間を設け、歯周ポケットの深さ、出血の有無、歯の動揺度などを詳しく検査します。その上で、レントゲン撮影により骨の状態を確認し、歯周外科治療が必要かどうかを判断しています。
代表的な歯周外科治療の種類
歯周外科治療には、いくつかの術式があります。
最も一般的なのが「フラップ手術」(オープンフラップキュレッタージ)です。この手術では、歯茎を切開して歯根面を直接見える状態にし、歯周ポケット内の奥深くに溜まった歯石や感染組織を徹底的に除去します。歯周病の進行を食い止め、出血や膿などの症状を改善する効果が期待できる治療法です。
その他にも、歯茎の形態を整える「歯肉切除」や、歯根の一部を切除する「歯根切除」、複雑な根の形態を持つ奥歯に対する「歯根分割抜去」などがあります。それぞれの術式は、患者様の口腔内の状態や歯周病の進行度に応じて選択されます。
歯周組織再生療法~失われた組織を取り戻す
歯周病で失われた歯周組織を再生させる治療法が「歯周組織再生療法」です。
従来の治療では「もう抜くしかない」と言われていた歯でも、再生療法によって一生残すことを期待できる状態にできる可能性があります。この治療は、成長因子の作用により歯周病で破壊された歯周組織の周囲にある細胞を増やし、さらに血管を作って細胞に栄養を送り込むことで、歯周組織の再生を促します。
リグロス®を用いた再生療法
リグロス®は、日本で開発された歯周組織再生材料です。
主成分は「bFGF」(塩基性線維芽細胞増殖因子)という成長因子で、細胞の増殖や血管の新生を促進する働きがあります。手術時に歯周ポケット内にリグロス®を塗布することで、失われた歯槽骨や歯根膜などの歯周組織の再生を促します。リグロス®を用いた治療は保険適用となっており、多くの患者様にとって選択しやすい治療法となっています。
エムドゲイン®ゲルを用いた再生療法
エムドゲイン®ゲルは、スウェーデンで開発された歯周組織再生材料です。
豚の歯胚から抽出されたタンパク質を主成分としており、歯が発生する過程で重要な役割を果たすタンパク質を含んでいます。このタンパク質が歯周組織の再生を促し、失われた骨や歯根膜の回復を助けます。エムドゲイン®ゲルは世界中で広く使用されており、長期的な臨床成績も良好です。ただし、自由診療となるため、費用面での検討が必要となります。
人工骨(AFG)を併用した再生療法
骨の破壊が著しく多い場合には、成長因子だけでは十分な再生が得られないことがあります。
そのような症例では、人工骨を併用することで、より確実な骨の再生を図ることができます。人工骨は骨の再生を促進するための足場となり、成長因子と組み合わせることで相乗効果が期待できます。当院では、患者様の骨の状態を詳しく診査し、必要に応じて人工骨を用いた再生療法をご提案しています。

再生療法の選び方~患者様に合った治療法とは
どの再生療法を選ぶべきか?
この判断は、患者様の歯周病の進行度、骨欠損の形態、全身状態、そして費用面など、さまざまな要素を総合的に考慮して決定します。まず重要なのは、歯周病の重症度です。軽度から中等度の歯周病であれば、リグロス®やエムドゲイン®ゲル単独での治療で良好な結果が得られることが多いです。
骨欠損の形態による選択
歯周病による骨の欠損には、「垂直性骨欠損」と「水平性骨欠損」があります。
垂直性骨欠損は、歯の周囲の骨が縦方向に深く溶けている状態で、再生療法の良い適応となります。一方、水平性骨欠損は、歯茎のラインに沿って横方向に骨が溶けている状態で、再生療法の効果が限定的となることがあります。当院では、歯科用デジタルパノラマ・CT X線装置を用いて3次元での診査を行い、骨欠損の形態を正確に把握した上で、最適な治療法を選択しています。
保険適用と自由診療の違い
リグロス®を用いた再生療法は保険適用となります。
一方、エムドゲイン®ゲルや人工骨を併用した治療は自由診療となります。保険適用の治療は費用負担が少ないというメリットがありますが、使用できる材料や術式に制限があります。自由診療では、より多様な材料や術式を選択でき、患者様の状態に最も適した治療を提供できる可能性が高まります。当院では、患者様のご希望や経済的な状況も考慮しながら、最適な治療計画を立案しています。
全身状態と生活習慣の考慮
再生療法の成功には、患者様の全身状態や生活習慣も大きく影響します。
糖尿病のコントロールが不良な場合や、喫煙習慣がある場合は、再生療法の効果が低下する可能性があります。また、歯周病の原因となる細菌のコントロールも重要です。当院では、再生療法を行う前に、必ず歯周基本治療を徹底的に行い、患者様ご自身のブラッシング技術の向上を図ります。そして、全身状態の改善や禁煙指導なども含めた包括的なアプローチで、再生療法の成功率を高めています。
歯周外科治療の流れと注意点
歯周外科治療は、いきなり手術を行うわけではありません。
まずは歯周基本治療から始まります。これには、クリーニング、噛み合わせの調整、虫歯や欠損部位の改善、そして毎日のブラッシング指導などが含まれます。当院では、患者様お一人に最低30分の診療時間を設け、お困りのことや痛み、違和感をよくお話いただき、様々なアドバイスやご提案、ご理解をいただいてから治療を行うというインフォームド・コンセントを大切にしています。
歯周基本治療の重要性
歯周基本治療で治らない場合、または基本治療だけでは治癒が期待できない場合に、歯周外科治療に進みます。
基本治療の段階で、口腔内の細菌レベルをできるだけ低く保ち、炎症をコントロールすることが、外科治療の成功に直結します。実際、基本治療が不十分なまま外科治療を行っても、良好な結果は得られません。当院では、マイクロスコープを用いて、肉眼では見えない細かな歯石や感染組織を徹底的に除去し、最大で肉眼の24倍もの高倍率で精密な治療を行っています。
手術当日と術後の注意点
手術当日は、局所麻酔を行いますので、痛みを感じることはほとんどありません。
手術時間は、治療範囲や術式によって異なりますが、通常1時間から2時間程度です。術後は、腫れや痛みが出ることがありますが、処方された痛み止めや抗生物質を適切に服用することで、ほとんどの場合コントロール可能です。術後数日間は、激しい運動や飲酒、喫煙を控え、手術部位を清潔に保つことが重要です。当院では、術後の注意事項を詳しくご説明し、患者様が安心して回復期間を過ごせるようサポートしています。
メンテナンスの重要性
歯周外科治療や再生療法で回復した状態を維持するには、定期的なメンテナンスが不可欠です。
歯周病は再発しやすい病気であり、治療後も継続的なケアが必要です。当院では、歯科医院でのプロフェッショナルケア(クリーニングやチェック、清掃方法の指導)と、患者様ご自身のホームケアの両方を重視しています。メンテナンスの頻度は、患者様の歯周病のリスクや口腔内の状態によって異なりますが、通常3ヶ月から6ヶ月に一度の来院をお勧めしています。

歯周外科治療を成功させるために
歯周外科治療の成功には、歯科医師の技術だけでなく、患者様ご自身の協力も欠かせません。
まず、信頼できる歯科医院を選ぶことが重要です。日本歯周病学会の認定医や専門医は、歯周外科治療に関する専門的な知識と技術を持っています。当院でも、長年にわたり様々な講習会や学会、海外研修などに参加し、常に知識や技術を刷新する努力を続けてきました。特に歯内治療にも力を入れており、マイクロスコープを導入し、歯牙の保存に努める知識と技術の習得に力を入れております。
設備と技術の重要性
当院では、安心安全な治療を提供するために、最新の設備を導入しています。
歯科用デジタルパノラマ・CT X線装置により、低被曝で高解像度の3次元診査が可能となり、より正確な診断ができます。また、欧州基準のCLASS B/S滅菌器を使用し、徹底した感染予防を行っています。これらの設備は、歯周外科治療の安全性と成功率を高めるために不可欠なものです。
患者様との二人三脚の治療
歯周病治療は、歯科医師と患者様の二人三脚で進めていくものです。
どんなに優れた治療を行っても、患者様ご自身のブラッシングや生活習慣の改善がなければ、良好な結果は得られません。当院では、患者様一人一人に最適なブラッシング方法をご指導し、生活習慣に合わせた適切なホームケアをご提案しています。また、治療に対する不安や疑問があれば、いつでもお気軽にご相談いただける雰囲気づくりを心がけています。
まとめ~歯周外科治療で歯を守る
歯周外科治療は、進行した歯周病から歯を守るための重要な選択肢です。
特に歯周組織再生療法は、従来では抜歯するしかなかった歯を残せる可能性を広げる画期的な治療法です。リグロス®やエムドゲイン®ゲル、人工骨を用いた再生療法など、患者様の状態に応じて最適な治療法を選択することで、より良い結果が期待できます。
しかし、どんなに優れた治療法でも、歯周基本治療やメンテナンスを怠れば、再発のリスクは高まります。歯周病は万病のもとと言われるように、口腔内の健康は全身の健康にも大きく影響します。口腔内の細菌レベルをきれいに保つことは、アンチエイジングや運動能力の維持にもつながるのです。
当院では、患者様の口腔ケアを大事に、一生お付き合いいただけるホームドクターを目指しております。歯周病や歯周外科治療についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。患者様一人一人に最適な治療計画を立案し、誠心誠意、二人三脚で治療を進めてまいります。
詳しい治療内容や設備については、かさはら歯科医院の公式サイトをご覧ください。皆様のご来院を心よりお待ちしております。
監修医師
かさはら歯科医院 院長 笠原 洋史
https://doctorsfile.jp/h/194172/df/1/

【経歴】
平成9年 日本歯科大学 新潟歯学部 卒業
医療法人慈皓会 波多野歯科医院 入職
平成10年 藤本研修会 補綴・咬合コース
平成12年 MAXIS implant institure Step by Step Course
平成14年 くれなゐ塾 20期セミナー
スウェーデンにてインプラント研修
平成16年 厚生労働省臨床研修指導歯科医認定
平成17年 医療法人慈皓会 波多野歯科医院 退職
かさはら歯科医院 開設
平成23年 JIADS研修会 Endoアドバンスコース
などその他多数受講
【所属学会】
顎咬合学会
デンタルコンセプト21
