根管治療が必要になる原因と治療の流れ|精密な歯の保存治療とは?
「歯がズキズキ痛む・・・」
そんな経験をされた方は少なくないでしょう。虫歯が進行してしまうと、歯の内部にある神経にまで細菌感染が及び、激しい痛みを引き起こすことがあります。このような状態になった時に必要となるのが「根管治療」です。根管治療は、歯を抜かずに保存するための重要な治療法であり、適切に行うことで歯の機能を長期間維持することができます。しかし、どのような原因で根管治療が必要になるのか、また治療の流れはどうなっているのか、不安に思われる方も多いのではないでしょうか。
私は長年にわたり歯内治療に力を入れており、マイクロスコープを導入し、歯牙の保存に努める知識と技術の習得に力を入れて参りました。根管治療は非常に繊細な治療であり、精密な技術と適切な設備が求められます。近年では、マイクロスコープやCT、ニッケルチタンロータリーファイルなどの最新機器を用いることで、治療の成功率は大きく向上しています。
本記事では、根管治療が必要になる原因から、実際の治療の流れ、そして精密な歯の保存治療について詳しく解説していきます。
根管治療が必要になる主な原因
根管治療が必要となる原因は複数ありますが、最も多いのは虫歯の進行です。虫歯は段階的に進行し、初期段階では痛みを感じないこともありますが、放置すると徐々に深部へと進んでいきます。虫歯の進行段階はC0からC4までの5段階に分類されており、根管治療の対象となるのは主にC3期以降です。
C3期は、虫歯が歯の内側の歯髄(神経や血管が通る組織)まで達した状態を指します。この段階になると、歯髄が細菌に感染し、歯髄炎という炎症が起こります。初期の歯髄炎では冷たいものがしみる程度の症状ですが、症状が進行すると、ズキズキとした激しい痛み、腫れ、膿が出るなどの症状が現れます。さらに放置すると、歯髄が壊死し、歯根の先端まで炎症が及んで歯根膜炎や歯根周囲炎といった深刻な状態になり、最終的には抜歯が必要になる可能性があります。
虫歯以外にも、外傷によって根管治療が必要になるケースがあります。強い衝撃によって歯が欠けたり、歯にひびが入ったりすると、歯髄にダメージが加わり細菌感染のリスクが高まります。また、歯の亀裂から細菌が侵入することもあります。外傷の場合、歯髄だけでなく周りの歯や歯根にも影響を与える可能性があるため、詳しい検査と適切な処置が必要です。
さらに、歯周病が進行して歯根の先端まで炎症が及んだ場合にも、歯髄に影響を及ぼし根管治療が必要となることがあります。歯周病は「サイレントディジーズ」とも呼ばれ、症状が悪化するまで自覚しにくい病気です。最近では全身疾患との関係性も明らかになってきており、歯周病は万病のもとと考えても良いでしょう。
根管治療が必要なサインを見逃さない
根管治療が必要かどうかを判断するためには、いくつかの症状に注意を払う必要があります。歯がしみる、何もしていなくても歯の痛みが続く、歯の色が変わる、歯茎から膿が出る、歯茎にニキビのようなものができる、といった症状が現れた場合は要注意です。
特に注意すべきなのは、「むし歯の痛みを感じなくなった」という症状です。痛みがなくなったからといって治ったわけではありません。これは歯の神経である歯髄の機能が低下している可能性が高く、むしろ危険な状態と言えます。痛みがないという理由で放置することは非常に危険ですので、歯に違和感があれば早めに受診することが大切です。
根管治療の具体的な流れ
根管治療は、感染した歯髄を取り除き、根管内を清掃・消毒し、再感染を防ぐために薬剤で満たして封鎖する治療です。治療の目的は、感染した歯髄を取り除くことで歯の根の炎症や感染を抑え、歯を残すことにあります。具体的な治療の流れは以下のようになります。
ステップ1:感染部位の除去
治療前にまず局所麻酔をかけて、なるべく痛みが出ないようにします。麻酔後、マイクロスコープなどの拡大鏡を使用して細菌感染している部位を確認しながら、医療用具のファイルで感染部位を取り除きます。このステップでは、感染した神経、つまり細菌が入った歯髄を取り除く処置を行います。正常な歯髄はできる限り残すようにして、感染した歯髄や膿をきれいに取り除くことがポイントです。
根管は非常に狭く複雑な形状をしているため、直視できない部分も多くあります。そのため、マイクロスコープを用いることで、肉眼では見えにくかった部分の状態が把握でき、適切な治療の判断が可能になります。当院では最大で肉眼の24倍もの高倍率で治療を行うことができるマイクロスコープを導入しており、より精度の高い治療を患者様へ提供することが可能となっています。
ステップ2:根管内の洗浄・消毒
感染部位を除去した後、根管内をきれいにするために徹底的な洗浄・消毒を行います。細菌を減らすために消毒・殺菌を繰り返し、根管内がきれいになるまでこの処置を続けます。ほとんどの細菌は、根管内の洗浄を繰り返すことで除去できます。感染部位が広範囲であれば、超音波を使って根管内の洗浄をすることも可能です。
根管洗浄には様々な方法があり、シリンジを用いた洗浄から、超音波機器を用いた洗浄まで、症例に応じて最適な方法を選択します。根管内に細菌が残ってしまうと再発の原因になるため、この洗浄・消毒のステップは非常に重要です。
ステップ3:薬剤の充填と密封
消毒が終了した根管内に薬剤を入れます。この際、少し力を入れて充填しますが、中に隙間が残ってしまうと細菌感染が再び起こる可能性があるためです。根管内に細菌が入る隙間をなくすために薬を充填して密封する処置を行います。すき間がないように強い力をかけて充填するため、痛みが出る場合がありますが、再感染を防ぐためには必要な処置です。
近年では、バイオセラミック系シーラーなどの高性能な材料を用いることで、より確実な封鎖が可能になっています。これらの材料は生体親和性に優れており、長期的な予後の向上に貢献しています。
ステップ4:土台の作製と被せ物の装着
根管治療が完了した後、被せ物の土台部分を作製して設置し、その上から被せ物を取り付けます。歯の支えとなる根管の治療は非常に大切です。歯の土台がしっかりしていないと、被せ物を装着してもすぐ取れてしまうことがあります。そのため、土台の作製も精密に行う必要があります。
精密な根管治療を実現する最新技術
根管治療の成功率を高めるためには、精密な診断と治療が不可欠です。当院では、患者様により安心・安全な治療を提供するために、最新の設備と技術を導入しています。
CTによる正確な診断
根尖病巣がある場合、従来のレントゲン検査ではうっすら黒く映る程度でしたが、CTを用いればレントゲン検査より細部まで把握が可能になり、もっと緻密に根尖病巣の診断や治療ができます。当院では歯科用デジタルパノラマ・CT X線装置を導入しており、低被曝、高解像度、3次元での診査により、さらに正確な診断が可能となっています。
CTによる3次元画像は、根管の形態や数、湾曲の程度などを詳細に把握することができます。日本人に多いとされるRadix Entomolaris(下顎大臼歯の遠心舌側根)のような複雑な根管形態も、CTを用いることで事前に確認でき、治療計画を適切に立てることができます。
マイクロスコープによる精密治療
マイクロスコープは主に医科の手術等で使用する顕微鏡のことで、歯科治療においても非常に重要な役割を果たします。これまで多くの医院が感覚に頼り治療をしていましたが、マイクロスコープのおかげで見えにくかった部分の状態が把握でき、適切な治療の判断が可能になりました。
当院では保険診療、自由診療に関わらず、必要に応じてマイクロスコープを用いて、より精度の高い治療を患者様へ提供することが可能となります。狭い根管の奥までアプローチするのは非常に難しいのですが、マイクロスコープを使用することで細菌が残ってしまうリスクを軽減し、再発の可能性を低くすることができます。
ニッケルチタンロータリーファイルの使用
根管内の感染部位をキレイに取り除くための器具として、ニッケルチタンロータリーファイルを使用しています。従来のステンレスファイルよりも柔軟性に優れており、湾曲の強い根管でも根の先までキレイに治療が可能です。自動根管拡大装置に取り付けて使用することで、治療時間も短縮することが可能となります。
ニッケルチタンロータリーファイルを用いた治療は、従来のハンドファイルと比べて根管内がより綺麗に形成され、しかも早いという利点があります。一度この方法を経験すると、元には戻れないと感じるほど、治療の質が向上します。
ラバーダムによる感染予防
ラバーダムは、口腔内のケガや器材などの誤嚥を防止するために欠かせないカバーです。その他にも、虫歯や根の治療時に唾液や細菌の侵入を防止したり、湿らないようにしたりする目的があります。また、詰め物や被せ物の接着を一層強くする効果もあります。
根管治療において、唾液や細菌の侵入を防ぐことは非常に重要です。せっかく根管内を清掃・消毒しても、唾液が入ってしまえば再び細菌感染のリスクが高まります。ラバーダムを使用することで、より確実な治療環境を整えることができます。
根管治療後の痛みと対処法
根管治療中や治療後に痛みを感じることがあります。これにはいくつかの原因が考えられます。
治療中の痛みの原因
歯根の膿や炎症が原因で、虫歯が歯根にまで進行して炎症や膿が出ている場合は、根管治療中に痛みを伴う可能性があります。この炎症や膿が根管治療中に痛みが出る原因なので、膿を出し切ることで痛みは緩和します。我慢できないくらい痛い場合は、痛み止めをお出ししますので服用をお願いいたします。
また、お薬を充填することによる刺激が原因のこともあります。細菌に汚染された根管内の清掃や消毒が終了すれば、再び感染させないためお薬を詰めます。その際、すき間がないように強い力をかけて充填するので、痛みが出る場合があります。
治療後の痛みの原因
根管治療が終了した歯は神経がなくなりますが、数日から1週間くらい痛みを感じる場合があります。これは治療の刺激で周囲の神経が敏感になるためです。周囲の神経が過敏になることで一時的に痛みを感じることがありますが、通常は時間とともに落ち着いていきます。
ただし、治療後に痛みが出るのは、歯が破折したり、再び虫歯になったりしている可能性もあります。痛みが長く続く場合や、強い痛みがある場合は、お早めにご連絡いただき、外科的処置や根管の再治療を検討する必要があります。
根管治療が適用されないケース
重度のむし歯やひどい外傷により根管治療が適用されないことがあります。根管治療は根管内にある細菌を取り除くことで歯の機能を守ることができますが、重度のむし歯のような根管内全体に細菌が感染した状態では、すでに歯の機能が低下している可能性があるので根管治療は難しい場合があります。
また、ひどい外傷で歯根破折という歯の根っこにひびが入ったり、完全に割れたりしている場合は抜歯が第一選択の治療といわれています。歯の根っこの状態で根管治療か抜歯をするかどうかは歯科医師の判断になるため、詳しい検査が必要です。
まとめ|精密な根管治療で大切な歯を守る
根管治療は、虫歯が進行して歯髄まで達した場合や、外傷によって歯髄が損傷した場合に必要となる重要な治療です。適切な根管治療を行うことで、抜歯を回避し、天然歯を可能な限り保存することができます。治療の成功には、正確な診断と精密な治療技術が不可欠であり、マイクロスコープやCT、ニッケルチタンロータリーファイルなどの最新機器を活用することで、治療の成功率は大きく向上しています。
歯がしみる、痛みが続く、歯茎が腫れるといった症状がある場合は、早めに受診することが大切です。症状を放置すると、治療が複雑になり、最悪の場合は抜歯が必要になることもあります。少しでも気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。
当院では、患者様一人ひとりに最低30分の診療時間を設け、インフォームド・コンセントを大切にしています。患者様のお困りの事や、痛み、違和感をよくお話いただき、様々なアドバイスやご提案、ご理解をいただいてから治療を行うことを心がけております。精密な根管治療により、皆様の大切な歯を守り、一生お付き合いいただけるホームドクターを目指しております。
根管治療に関するご相談や、歯の痛み・違和感がございましたら、ぜひかさはら歯科医院までお気軽にお問い合わせください。
監修医師
かさはら歯科医院 院長 笠原 洋史
https://doctorsfile.jp/h/194172/df/1/

【経歴】
平成9年 日本歯科大学 新潟歯学部 卒業
医療法人慈皓会 波多野歯科医院 入職
平成10年 藤本研修会 補綴・咬合コース
平成12年 MAXIS implant institure Step by Step Course
平成14年 くれなゐ塾 20期セミナー
スウェーデンにてインプラント研修
平成16年 厚生労働省臨床研修指導歯科医認定
平成17年 医療法人慈皓会 波多野歯科医院 退職
かさはら歯科医院 開設
平成23年 JIADS研修会 Endoアドバンスコース
などその他多数受講
【所属学会】
顎咬合学会
デンタルコンセプト21
