虫歯の進行段階と治療方法|初期・中等度・重度でどう違う?
虫歯の進行を理解することの重要性
虫歯は、誰もが経験する可能性のある口腔疾患です。
しかし、その進行段階によって治療方法が大きく異なることをご存じでしょうか。初期段階で発見できれば、削る量も少なく、治療期間も短く済みます。一方で、重度まで進行してしまうと、神経を取り除く「根管治療」や、最悪の場合は「抜歯」が必要になることもあります。虫歯の進行段階を正しく理解し、早期発見・早期治療を心がけることが、歯を長く健康に保つための鍵となるのです。
私は長年、インプラント治療や歯内治療に携わってきましたが、患者様の多くが「もっと早く来ればよかった」とおっしゃいます。痛みが出てからでは、すでに虫歯が進行している証拠です。この記事では、虫歯の進行段階ごとの症状と治療方法について、わかりやすく解説していきます。

虫歯の進行段階を知る前に〜歯の構造を理解しよう
虫歯の進行を理解するには、まず歯の基本的な構造を知っておく必要があります。
歯は大きく分けて3つの層で構成されています。最も外側にあるのが「エナメル質」です。これは人体で最も硬い組織であり、歯を外部の刺激から守る役割を果たしています。白く硬いのは、このエナメル質のおかげです。エナメル質が虫歯になっても、神経がないため痛みは感じません。
その内側にあるのが「象牙質」です。象牙質はエナメル質よりも柔らかく、歯のほとんどを占めている大きな組織です。柔らかいため、衝撃を吸収してくれる作用があります。象牙質まで虫歯が進行すると、痛みを感じるようになります。
そして最も内側には「神経」が通っています。正確には歯髄と呼ばれ、神経だけでなく血管なども含まれています。この歯髄は、歯に栄養を届けたり象牙質を作ったりと、重要な役割を担っています。虫歯が神経まで達すると、激しい痛みを伴うようになります。
初期虫歯(C0〜C1)の症状と治療方法
C0:虫歯の超初期段階
C0は、虫歯の最も初期の段階です。
見た目にはほとんど変化がなく、黒くなっていません。しかし、虫歯菌が出す酸によって、歯の表面が「脱灰」という状態になっています。脱灰とは、エナメル質からミネラルが溶け出している状態のことです。このまま進行すれば、歯に穴が開いてしまいます。
この段階では、まだ歯を削る必要はありません。唾液やフッ素による「再石灰化」を促すことで、虫歯の進行を止めることができます。フッ素入りの歯磨き粉を使用したり、歯科医院でフッ素塗布を受けたりすることが効果的です。また、唾液には再石灰化を促す作用があるため、よく噛んで唾液の分泌を促すことも大切です。
C1:エナメル質に限局した虫歯
C1は、エナメル質が虫歯になってしまった状態です。
痛みはほとんど感じないため、治療中も麻酔が使われることはほとんどありません。見た目も黒っぽくなるため、虫歯に気づく方も出てきます。この段階では、虫歯になった部分を削り、「
コンポジットレジン」という白いプラスチックの詰め物で修復します。治療回数は1〜2回程度で、治療時間も数分から数十分程度と短く済みます。
保険適用の場合、費用は1,500〜3,000円ほどです。削る範囲も小さく済むため、自分の歯の大部分を残すことができます。できる限り初期段階で治療ができるよう、定期的な歯科検診を受けることをおすすめします。
中等度虫歯(C2)の症状と治療方法
C2は、象牙質まで虫歯が進行してしまった状態です。
冷たいものを食べると歯がしみ始めるのが、このC2の特徴です。つまり、自覚症状が出てくるため、虫歯に気づく方も多くなってきます。また、歯の色もはっきりとわかるようになってきます。削る範囲は初期の虫歯よりも大きく、深くなることが多いです。
治療方法としては、C1と同様にコンポジットレジンで修復する場合もあれば、虫歯の範囲が大きい場合は型取りをして「インレー」と呼ばれる詰め物を作製することもあります。インレーには、保険適用の金属製のものと、自費診療のセラミック製のものがあります。
保険適用の金属インレーは、最低限の機能回復を目的としています。しかし、精度が低く、経年的に虫歯や歯周病のリスクが高まる可能性があります。また、銀色で見た目が目立つこと、金属アレル
ギーを引き起こすリスクがあることもデメリットです。
一方、自費診療のセラミックインレーは、材料に制限がなく、精度が高いため、虫歯や歯周病のリスクを下げることができます。金属アレルギーのリスクもなく、色や形態が天然の歯に近く美しい仕上がりになります。治療期間は1週間程度で、2回の通院が必要です。
中等度虫歯の治療費用
保険適用の場合は3,000〜5,000円程度です。
自費診療の場合は、材料や治療内容によって異なりますが、5万円程度、またはそれ以上の費用がかかることもあります。自費診療は歯科医院によって費用が異なるため、事前に確認することをおすすめします。

重度虫歯(C3〜C4)の症状と治療方法
C3:神経まで達した虫歯
虫歯が進行し、象牙質を突破して神経まで達してしまった場合をC3と言います。
非常に強い痛みが1日中おさまりません。神経には血管なども通っているため、虫歯菌に侵されると神経全体が一気に悪くなってしまいます。そのため、神経を抜かざるを得ないのです。この段階になると、「根管治療」が必要になります。
根管治療とは、虫歯を削ってから神経を除去し、歯の内部をしっかりと清掃したうえで薬を詰め、かぶせ物をする治療です。1週間に1回のペースで通い、2〜3回消毒を繰り返すことになります。その後、1〜1ヶ月半程度経ってから詰め物やかぶせ物を行います。
当院では、マイクロスコープを用いた精密な根管治療を行っています。マイクロスコープは、最大で肉眼の24倍もの高倍率で治療を行うことができるため、より精度の高い治療が可能です。保険診療、自由診療に関わらず、必要に応じてマイクロスコープを用いることで、患者様により良い治療を提供しています。
根管治療の費用は、消毒の回数によって変わります。保険適用の場合、安く済めば2,000円程度、場合によっては7,000円程度かかることもあります。治療期間は、初回の根管治療であれば2〜3ヶ月程度ですが、再治療の場合はさらに時間がかかることもあります。
C4:歯冠が崩壊した状態
虫歯が完全に進行し、歯のほとんどが破壊された状態がC4です。
この段階になると、歯を残すことが難しく、抜歯を選択せざるを得ない場合もあります。抜歯後は、インプラント、ブリッジ、入れ歯などの方法で失った歯を補う必要があります。当院では、「ノーベルガイドシステムDTX Studio™️Implantソフトウェア」を用いた治療計画の立案と、X-ガイドを用いた「ダイナミック・ナビゲーションサージェリー」またはサージカルテンプレートを用いた「ガイデッド・サージェリー」によるインプラント治療を行っています。
これらの手術方法を用いることで、より正確で安心・安全なインプラント治療を提供することができます。しかし、できる限り自分の歯を残すことが理想です。そのためにも、虫歯が重度になる前に治療を受けることが大切です。
虫歯治療後の歯の寿命を延ばすために
虫歯治療を受けた後、その歯がどれだけ長持ちするかは、治療方法によって大きく変わります。
根管治療後の歯の寿命について調査した研究によると、コンポジットレジンで修復した場合の平均寿命は6.5年、インレーで修復した場合は8.5年、クラウン(かぶせ物)で修復した場合は20.1年という結果が報告されています。つまり、同じ根管治療を受けた歯でも、その後の補綴処置によって寿命が最短6.5年から最長20.1年まで大きく変わるのです。
特に注目すべきは、根管治療後に歯質が残っていたとしても、部分的な詰め物であるコンポジットレジンやインレーではなく、歯全体を覆うかぶせ物である「クラウン」による治療の方が歯の寿命が長くなるという点です。クラウンによって歯を全体的に覆うことで、健全な歯質が残っている状態よりも強度が向上することが研究で明らかになっています。
つまり、多少健全な歯質を削ってでもクラウンにする方が、歯の強度が高まり、結果として長持ちするのです。インレーやアンレー、レジン充填を希望される患者様のお気持ちも理解できますが、クラウンを装着することで歯の寿命が延びることを知っていただき、「何が一番歯にとって良いか」を考える材料の一つとしていただければ幸いです。
定期的なメインテナンスの重要性
虫歯治療を受けた後も、定期的なメインテナンスが不可欠です。
虫歯や歯周病が進行してから治療を行うのではなく、予防をすることが大切です。良い状態で維持するためには、歯科医院でのプロフェッショナルケアおよび改善点のご指導と、ご自身でのセルフケアが重要です。当院では、患者様お一人に最低30分の診療時間を設け、患者様のお困りの事や、痛み、違和感をよくお話いただき、様々なアドバイスやご提案、ご理解をいただいてから治療を行うというインフォームド・コンセントを大切にしています。
3ヶ月に1度の定期検診とメインテナンスが、再発を防ぐカギとなります。このサイクルには科学的な根拠があり、歯周病菌の再増殖を防ぎつつ、歯ぐきの健康維持をサポートする最適な間隔とされています。

まとめ〜早期発見・早期治療が歯を守る鍵
虫歯の進行段階と治療方法について解説してきました。
初期段階(C0〜C1)であれば、削る量も少なく、治療期間も短く、費用も抑えられます。中等度(C2)になると、詰め物が必要になり、治療期間や費用も増えます。重度(C3〜C4)になると、根管治療や抜歯が必要になり、治療期間も長く、費用も高額になります。何より、自分の歯を失うリスクが高まります。
虫歯は、早期発見と適切な治療が鍵となる病気です。痛みが出てからでは、すでに虫歯が進行している証拠です。定期的な歯科検診を受け、虫歯を早期に発見することが、歯を長く健康に保つための最善の方法です。
私は、「樽一杯のワインに一滴の泥水を入れれば、それは樽一杯の泥水になる」という言葉を診療理念としています。基本を大切に疎かにせず、常に自身の研鑽を忘れず発展をさせていくことが、大切な一本の歯牙の治療は基より一つの口腔としての機能改善につながると考えております。患者様の口腔ケアを大事に、一生お付き合いいただけるホームドクターを目指しております。
虫歯でお困りの方、予防に努めたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。詳細はこちら:かさはら歯科医院
監修医師
かさはら歯科医院 院長 笠原 洋史
https://doctorsfile.jp/h/194172/df/1/

【経歴】
平成9年 日本歯科大学 新潟歯学部 卒業
医療法人慈皓会 波多野歯科医院 入職
平成10年 藤本研修会 補綴・咬合コース
平成12年 MAXIS implant institure Step by Step Course
平成14年 くれなゐ塾 20期セミナー
スウェーデンにてインプラント研修
平成16年 厚生労働省臨床研修指導歯科医認定
平成17年 医療法人慈皓会 波多野歯科医院 退職
かさはら歯科医院 開設
平成23年 JIADS研修会 Endoアドバンスコース
などその他多数受講
【所属学会】
顎咬合学会
デンタルコンセプト21
